トヨタ自動車が2月9日に発表した2021年4~12月期決算の純利益は前年同期比58%増の2兆3162億円となり、同期間としての過去最高益を更新した。半導体不足による減産や原材料コストの影響はあるものの、それを上回る円安効果と北米で好調な販売金融などによって増益となった。
こんな業績絶好調のトヨタでも、優秀な幹部社員が退社し始めていることを、昨年9月と今年2月発売の「週刊現代」で書いた。直近の2月4日に発売された記事が「現代ビジネス」で11日に公開されたため、ネット上では話題になっているようだ。
人事部門で10人近い管理職が退社! どんな記事なのかを簡潔に紹介すると、まず、最初に書いた記事は、クラウンやカムリ、カローラなどトヨタの主力車種を担当する社内分社組織「ミッドサイズビークル(MS)カンパニー」で、重責を担っていたMS統括部長の山崎宅哉 氏が昨年夏に突如退社、輸入車などを手掛ける他の会社に転職したというもの。
山崎氏は、灘中・灘高、東大を経て1991年入社。コーポレート戦略部事業戦略室長や北米統括会社で管理職を務めてきたエリートだった。役員になってもおかしくないキャリアだがトヨタを去った。さらにカムリ開発のチーフエンジニアだった東大院卒の勝又正人 氏も定年前にトヨタを辞め、中国企業に転職した。
その後も複数の情報源から「優秀な幹部が辞めている」との続報がもたらされ、極めつけは、昨年末に人事部長の大橋俊介 氏(98年入社)が突如退職し、新興のエネルギー企業に転職したというものだった。「人事部門では昨年1年間で管理職が10人近くも辞めた 」そうだ。
SNSやヤフーのコメント欄などでは、「豊田章男社長は改革者なので、それについていけない古い考えの幹部が辞めているのではないか 」「現体制の反対勢力から情報を得ている 」といった話も流れているが、ニュースソースは明かせないものの、それは全く違うとだけは言っておこう。
最初の記事が出ると、退職理由は個人の価値観によるものや家庭の事情など様々であるし、転職するのも自由だから、「そんな話をいちいち書かないで欲しい」と筆者に言ってきたトヨタ幹部がいた。
ただ、筆者がなぜ続報も書いたのかと言えば、給料など待遇面で恵まれているトヨタで幹部社員が続々退社する背景には、組織の在り方や社員のマインドに大きな変化が生じているからであり、日本を代表する会社でのそうした動きは重要な経済ニュースであると判断しているからだ。
ちなみにトヨタの50歳くらいの部長級だと年収2000万円はいく。40代半ばでも軽く1500万円は超えているだろう。
「こんな会社やっていられない」
ある幹部が退職前に相談した関係者に話を聞くことができた。退職理由は「こんな会社やっていられない」というものだったそうだ。現役の社員に話を聞いても、給料への不満ではなく、今のトヨタの仕事の進め方にやりがいが感じられないことと、豊田章男社長を過度に崇拝する雰囲気に嫌気がしている人もいた。
今のトヨタのテレビCMではクルマを宣伝するのではなく、豊田社長自らが自分の存在をアピールする場になっている。メーカーなのに商品が主役ではなく、社長が主役だ。さらには、30そこそこの豊田社長の長男大輔氏が、子会社ウーブン・プラネット・ホールディングス傘下のウーブン・アルファで代表取締役になり、その取り巻き関係者が出世していく。豊田社長は子会社に私財50億円を投入している。こうした行為は利益相反行為と見られる可能性がある。
また、株主総会では、 豊田社長のMBAご学友 が、トヨタを絶賛する質問をしたこともある。 そのご学友の金融系企業がトヨタのファイナンス関係の仕事を請けている。
創業家と言いながら豊田社長の持ち株比率は1%にも満たないのに、会社を私物化しているようにしか筆者には映らない。この会社には一体ガバナンスというものがあるのだろうかとさえ感じてしまうのは、おそらく筆者だけではあるまい。心ある社員はおかしいと思っていても、物言えば唇寒しで黙っているだけだ。
トヨタのある社外役員は、外部の知人に「今のトヨタはどうなっていますか」と尋ねられ、トヨタをモデルにしたと見られる企業小説『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』を渡して、「これを読んでください」と言ったそうだ。そこには、創業家出身で人間としての器が小さいトヨトミ自動車社長の豊臣統一が登場する。
飛び出せ!会社なんて「器」に過ぎない
筆者は、トヨタを辞めていく人に心から拍手を送っている。そんな会社はとっとと辞めてしまいなさい、と。その理由をこれから述べるが、それが本稿の主題である。日本を代表する大企業のトヨタはこれまで人材育成に長けていて優秀な人材が多かった。だから業績が良かったとも言える。そんな優秀な人材がもっと会社を飛び出し、流動化してベンチャーや新興企業に流れたり、起業したりする人が出るべきだ。
そもそもトヨタでは1996年には「チェレンジプログラム 」と呼ばれる、年功色を払拭した社員の「プロ化」 を進める人事制度を導入していた。その際には「トヨタを辞めても1000万円 」といったキャッチフレーズが掲げられた。専門性を武器に転職しても年収1000万円が得られるような人材を育てていきたいとの思いが込められていた。
トヨタを去った幹部たちは、トヨタで培った専門性が外で生かせるか否かを試す絶好のチャンスと言える。
所詮、会社とはビジネスをするための「器」に過ぎない。その「器」が自分に合っていないと思えば、やめればいいだけの話だ。あるいは自分で「器」を作ればいい。これは、トヨタ社員に限った話ではなく、日本の大企業の優秀なサラリーマンに言いたいことだ。ダメだと思ったら早く会社を見限れ!
こんなことを言うと、独立や転職して失敗したらどうする、路頭に迷うではないか、無責任なことを言うなといった批判が必ず出る。そこで筆者は必ずこう反論する。自分の人生、キャリアが成功するか否かを人のせいにするな、と。
実は自分のキャリアが思い通りに行く人なんておそらくいない。アメリカの有名大学のキャリア論の学者が次のような興味深い考え方を提起している。
会社を飛び出し「予期せぬ成功」をするには 実は自分のキャリアが思い通りに行く人なんておそらくいない。米スタンフォード大においてキャリア論で有名なジョン・D・クランボルツ 教授は「計画的偶然性 」という概念を示している。計画と偶然は相反する概念であるが、キャリア形成とは、一定の計画をもって努力をしながら、その成功をつかみ取るのは偶然の結果である、という意味だ。
偶然の発見という意味で「セレンディピティ 」という言葉が使われる。ノーベル賞級の研究も「セレンディピティ」によるものが多いと言われるが、これは単なる偶然ではなく、優れた研究の背後には多くの無駄や試行錯誤、すなわち努力が隠されているということである。こうした努力を積み重ねた結果、予期せぬ成功が転がり込んでくるという意味だ。
こうも言えるのではないか。努力している人は、女神がチャンスの手を差し伸べてくれていることに気づくが、さぼっている人ほど気づかない、と。要は会社を飛び出して成功する人は、飛び出すまでに、人脈構築、専門性を磨くことなど人並み以上の努力が必要なのである。
こうした努力をしていて、独立、転職しても成功しそうな人材であっても、日本では今いる会社に一生を捧げるような生き方をする会社員がこれまで多かった。昭和、平成を経て令和の時代になり、そうした価値観は崩れているが、もっと崩れるべきだ。
人材「飼い殺し」が生む負の連鎖 岸田政権で「分配」が重要政策の一つとなったのは、日本は1人当たりの所得が向上しないからだ。その根本的な理由について、優秀な人材の流動性と労働生産性が低いこと だと筆者は思っている。
優秀な人材が、名門大企業というだけで成長が見込めないような、あるいは経営者とその周辺が甘い汁を吸っているようなガバナンスが崩壊した組織に囲い込まれ、将来有望な事業を育てることに挑戦できない状況に置かれているケースは多々ある。そんな組織では、無駄な会議と社内調整、経営層への忖度など生産性の低い仕事に追われ続ける。言ってしまえば人材の飼い殺しだ。
人材を飼い殺していることで、もっと稼げる潜在能力のある企業が衰退する。日本の大企業ってそんなところが多い。この結果、社員の給料を上げることもできず、取引先を買い叩き、下請けの中小企業をいじめて生き延びる。さらに、優秀な人材が組織を飛び出し、新たな企業を起業すればそこから成長ビジネスが誕生するかもしれないが、そんな動きは日本では少ない。こうしたことが積み重なって負の連鎖ができて日本人の賃金は伸びないのだ。
優秀な人材でも、そのまま腐った組織にどっぷりつかっていると、いずれ自分も腐っていくことは必定だ。そして人材としての市場価値を失う。
米国の碩学、故ピーター・ドラッカー 氏は「起業家精神はしばしば大企業の中で生まれてきた 」と説いている。米国のIBMやGEといった大企業は、組織内で新規事業を育てて変身しながら生き残ってきたという意味だ。
日本でも富士フイルムホールディングス は、写真フィルムの会社から医療機器や化学、製薬などの会社に変わった。モーター大手の日本電産 も、モーターに基軸を置きながらも供給先がフロッピーディスク向けからハードディスク向けが中心になり、これからはクルマ向けが主役になろうとしている。
大企業人材の新たな挑戦に期待 優れた大企業は、環境の変化に合わせて人材を取捨選択しながら活用し、新たなビジネスを創造している。そのプロセスでは当然ながら人材も入れ替わる。率直に言って、変化のために必要な人材もいれば不要な人材もいる。断っておくが、不要な人材を人材として否定しているわけではない。その会社で要らなくなったというだけで、他社では必要な人材となるかもしれない。
今いる会社で新たなことに挑戦できるのならば辞める必要はない。しかし、それができないのなら、自分で会社を興すのでも、自分の能力を発揮できそうな他の企業に移るのでもいいから自分のキャリアが磨ける場所を探すべき だ。繰り返すが、当然ながらそれなりの事前の努力は必要である。
優秀な人材が腐った大企業や将来性のない組織から解き放たれ、どんどん新たなビジネスに挑戦して成功を収めて欲しい。そして、人材が流出する企業では、経営者がその理由に気づいて舵取りの手法を変えれば、その企業も生まれ変わることができるかもしれない。そうした積み重ねが日本企業を再生させ、ひいては日本経済の成長につながる。
トヨタの幹部の離脱は、案外、日本経済がいい方向に変化し始めた兆しなのかもしれない。
4 件のコメント:
そう遠からず、もうダメだとなったとき、
ロシアが所有してくれそうですがw
創業者一族がしがみつくようだと…
投資話や投資先
その背後の人脈+人物
良く知っておいた方が良いと
解る記事だなーとオモタw
でもパンピに
知り得る範疇なんて
知れてるもんだと思い知るw
>平成以前はものすごくまともな人
そうだったのですか、結構前より悪い噂を耳にしてたので 昔 丁稚のころ耳にした話と違うなぁって思っていました サキシル内容からして実際はもっと悪いと判断するほうが妥当かと思います MBAご学友の件にしても 典型的すぎますしね 団長さんからの★はありえることでしょうね
子供をコネ入社させた役員連中は泥舟と心中なんでしょうねー
たくさん居るらしいですねえ(^^)
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