コロナワクチン、未接種より接種済みの人の感染率が高くなっているのはなぜか
2回目接種までの感染予防効果はほぼ消失?「逆転現象」の原因を考える2022.6.26(日) 篠原 拓也(篠原 拓也:ニッセイ基礎研究所主席研究員)
ワクチン接種歴別の新規陽性者数データに疑義
コロナ禍は第6波が過ぎて改善傾向が続いてきた。経済活動の再開も進み、朝の通勤・通学はコロナ以前の姿に戻ってきた。「Go To トラベル」に代わる政府の旅行割引支援事業「県民割」は7月14日宿泊分までとし、7月前半より「全国を対象とした観光需要喚起策」として、補助額を引き上げて実施されることも発表されている。ただ、6月下旬に入って全国の新規感染者数は前週同曜日比で増加に転じており、今後の感染拡大の動向は、なお予断を許さない状況となっている。
そんななか、感染拡大防止策のカギとされてきたワクチン接種について、気になるデータが明らかになった。「新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード」の事務局が作成した資料で、ワクチン接種歴別の新規陽性者数のデータだ。
それによると、年代によっては、2回接種したほうが未接種よりも新規感染率が高いという。一体どういうことなのか? このデータをもとに考えてみたい。
まず、示されたデータの算出法を簡単に見ておこう。データは接種歴について、「未接種」、「2回目接種(3回目接種済みを除く)」、「3回目接種済み」、「接種歴不明」の4つの区分を設けている。そして、主に10歳ごとの年齢区分ごとに「未接種」~「3回目接種済み」の10万人あたりの新規陽性者数を表示している。
このうち、新規陽性者数は、HER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)に登録されているデータをワクチン接種歴に応じて集計したものとされている。
実は、ワクチン接種歴が未記入の場合、以前は「未接種」に分類されていた。それが、5月11日以降は「接種歴不明」に分類するよう厚生労働省が分類方法を変更したため、物議を醸した。
コロナ対策を検討する政府関係者や専門家は、これまでに何度かこのデータを用いてワクチンの説明をしてきた。そこで、今回の分類方法の変更を受けて、ワクチン接種を推進する立場の厚生労働省が、「接種歴不明」を「未接種」に分類して、「未接種」の新規陽性者の数を多く見せようとしていたのではないか、との声がSNS上などであがった。
厚生労働省は6月7日の大臣会見で、記者からの質問に対し「このデータは元々、ブレイクスルー感染(ワクチン接種後の感染)の人数を調べるために集計して発表するのが目的であり、何か他意があるということではない」と説明している。
一方、10万人あたりの新規陽性者数の母数となる、ワクチン接種歴に応じた年齢区分ごとの人口は、VRS(ワクチン接種記録システム)に報告されているデータにもとづいて算出されている。未接種者数は、各年齢区分の人口総計から接種済みの人数を引き算して算出されている。こうして割り出されたワクチン接種歴別の10万人あたりの新規陽性者数が、毎週アドバイザリーボードの事務局資料の一部として提示されている。
ワクチン接種済みのほうが感染率が高い「逆転現象」
では、実際のデータについて見てみよう。次の表はアドバイザリーボードで提示された6月6日から12日のデータをもとに、筆者が60-69歳と12-89歳を付け加えて作成したものだ。
次に、年齢区分別に見ると、30代、40代、60代、70代では、いずれも2回目接種済みのほうが未接種よりも10万人あたりの新規陽性者数が多い。つまり、これらの年代では、2回目接種済みのほうが新規感染率の高い「逆転現象」が起きている。
このうち特に、65-69歳では、3回目接種済み(10万人あたりの新規陽性者数17.1人)と比べても、未接種(同15.2人)のほうが少ない。ワクチンを打ったのに感染率は高いという状況になっている。
この表によると、40代~70代(50代を除く)では、2回目接種までの感染予防効果はほぼ消失してしまっていることになる。
なぜ50代だけ「逆転現象」が起きていないのか
このワクチンの逆転現象をどう理解すべきかは難しいところだ。アドバイザリーボードの資料にも、「結果の解釈には留意が必要」との注意書きが付されている。
なぜ逆転現象が起きているのか、いくつかの要因を考える必要がある。まず、2回目の接種は昨年秋ごろまでに終えている人が多い。その後、3回目の接種を受けていない人は、2回目接種から半年以上が経過して体内の抗体が減少しており、感染予防効果が薄れていることが考えられる。
さらに、第6波で問題とされたのがウイルスの変異だ。第6波では、オミクロン株が蔓延し、その後BA.2系統への置き換わりなど、さらに変異が続いている。その結果、ワクチンの感染予防効果が低下してしまっている可能性がある。
一方で、ワクチン接種を受けた人の意識はどうか。「自分はワクチンを2回打っており、感染防止対策は万全」という過信があり、未接種の人に比べて接種後の感染防止対策を緩めてしまったままかもしれない。
特に、60代、70代の人は、8割以上の人が3回目接種済みとなっている。まだ3回目を打っていなくても、周囲の3回目接種済みの同世代の人々と行動を共にするうちに、同じような過信を持つようになっているかもしれない。ただし、その根拠はなく、あくまで筆者の推測に過ぎない。
また、30代、40代など現役世代では、経済活動の再開によりテレワークからオフィス勤務に戻るなど、人との接触機会が増えてきていることも背景にあるものと考えられる。もともと現役世代、特に若年層ほど仕事や遊びに活動的であるため、ウイルス感染の機会が多いとされてきた。実際に、最近の新規感染者数を年代別に見ると、若年層がその中心となっている。3回目を打つ前でも、コロナ前にしていたような、仕事や遊びでの人付き合いを再開した人が多い。
こう考えると、50代は絶妙な位置にいるといえる。50代には、2回目の接種をした後、3回目接種を終えていない人が全体の2割弱おり、接種後の楽観ムードは広がっていないものとみられる。
一方、50代は若年層ほど活動的ではなく、人との接触機会の増加も限られるはずだ。その結果、30代、40代、60代、70代で起きている逆転現象が、50代には起きていないという現象につながっているのかもしれない。ただし、このあたりの詳しい原因分析には、これからの疫学上の専門的な検証が求められるといえるだろう。
「4回目接種」が始まっている日本だが……
実はこの逆転現象はアメリカでも起こっている。アメリカではCDC(アメリカ疾病予防管理センター)が、毎週ワクチン未接種の人と、接種を完了した人の新規感染率(10万人あたりの新規陽性者数)を年代別に公表している。
それを見ると、日本と同様に3回目接種済みの人が増えてきており、全体として逆転現象は起きていない。しかし、5-11歳の人については、今年5月にようやく3回目接種が認められたばかりだ。現在、接種を完了したとされる人でも、2回目接種済みまでにとどまっている。
その5-11歳を見ると、接種を完了した人(2回目接種済みの人)のほうが未接種の人よりも新規感染率が高い状況が続いている。つまり、逆転現象が起きている。ただ、今後3回目接種が進めば、それに応じてこの年代の逆転現象は解消するかもしれない。
日本のワクチン接種に話を戻そう。日本では、今年5月25日より60歳以上の人などを対象に4回目のワクチン接種がスタートしている。ただ、この4回目接種は、感染防止というよりも感染した場合の重症化防止を主眼に置いたものとされている。このため、4回目接種が進んだとしても、逆転現象に対してはあまり影響がないかもしれない。
日本では、「全国を対象とした観光需要喚起策」が7月前半から実施されるなど、コロナ禍からの脱却に向けて経済活動の再開が進むものと考えられる。この喚起策の利用には、本人確認書類などに加えて、ワクチン接種歴3回接種済またはPCR検査等の陰性結果の証明が必要となる見込みだ。
ただし、いま起きている逆転現象を踏まえれば、3回目接種の感染予防効果もいずれ薄れていくだろう。活動再開の前提として、ワクチンの感染予防効果に過度な期待を持つことは避けるべきだ。
そう考えると、まだ当面の間、屋内で人との距離が確保できない場合のマスク着用などの感染防止対策をいっぺんにやめてしまうのは難しいだろう。今年もまもなく到来する猛暑の中で、感染予防と熱中症予防のバランスをとる必要がありそうだ。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/70676
2022年6月28日火曜日
2022年5月6日金曜日
篠原 拓也のプロフィール
2 件のコメント:
ん~、自力は怒られるし嫌だなぁ と
財務省vs.厚労省のステージに持込む画策に励む
払う段になる頃受取人が次々死ぬからいいだろ
暫く芯棒しとけと言われる
若年層のワクチン接種が超加速化する かな
ニッセイの人なら保険請求してる人の接種割合を公表して欲しかった。
コメントを投稿