2015年5月15日金曜日

阿Q大戦争へ

コラム:「北朝鮮の核」を懸念し始めた中国
2015年 05月 11日 16:15 JST

[11日 ロイター] - この春、イラン核協議の「枠組み合意」に世界の注目が集まるなか、北朝鮮が核兵器保有量を増大させていることを、ようやく中国も本気で懸念し始めた。北朝鮮の脅威に対する警告の数でも、中国は初めて米国を上回った。

先に行われた非公式会見で中国は、北朝鮮が来年までに、高濃縮ウラン(HEU)の生産を通じ、保有する核弾頭数をこれまでの20個から40個に倍増させる可能性を示唆した。2013年に撮影された衛星画像からは、北朝鮮が濃縮施設を拡大していることを伺い知ることができる。

もしそれが本当なら、いくつかの危険が想定できる。

第一に、遠心分離機を使用したHEU生産能力は、技術的な理由から停止するのが困難であり、民間利用されずに生産の急増を招く恐れがあることだ(北朝鮮は低濃縮ウラン燃料を使用する軽水炉を建設しているが、まだ稼働可能な状態ではないとみられる)。北朝鮮が1年に核弾頭10を追加できるということは、現在約240を保有する中国にとっては無視できない脅威となるだろう。

第二に、核兵器保有量が増大するのに伴い、北朝鮮はそうした兵器に新たな役割や任務を担わせ、ミサイルなど核兵器運搬手段の開発を進める可能性がある。そして最後に、多くの専門家が懸念しているのは、同国の非核化が夢物語となることだ。その場合、非核化の実現にはたった1つの選択肢しかない。それは同国の崩壊という、非常に混乱したシナリオを意味することになる。

それにもかかわらず、こうした問題が国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で話し合われることはほとんどないだろう。NPT脱退を宣言している北朝鮮は2000年以降、同会議に出席していない。

外交官らはとりわけ過去5年の間に、北朝鮮が言葉による「脅し」から「リアル」な核兵器保有国へと急激な変化を遂げるのを目の当たりにしてきた。北朝鮮がプルトニウムと短距離ミサイル製造能力を有しているかを専門家が議論していたのはたった15年前の話だ。当時、同国が実際に核兵器を製造できるかどうかについて、誰も知る由もなかった。1994年の米朝枠組み合意に基づき、北朝鮮は核開発プログラムを凍結したが、2002年に同合意は崩壊。2003年にスタートした米国、中国、ロシア、日本、韓国、北朝鮮からなる6カ国協議も難航している。

目下唯一の問題は、北朝鮮がどこまで核兵器開発を進めるかだ。これまで3度の地下核実験(2006年、2009年、2013年)や長距離弾道ミサイルを含む度重なるミサイル実験、最高人民会議で核保有の法制化(2013年)など、北朝鮮はいかなる条約にも強制されない拡大する核保有国を自負している。

プルトニウムの備蓄のほか、北朝鮮は濃縮ウラン製造を行っており、海上発射ミサイルなどによる攻撃を受けた場合の自国核戦力の生存性を高めようとしている。同国は9日、潜水艦から弾道ミサイルを発射する実験を行った。

では、北朝鮮を再びNPTに参加させる手段や仕組みがないとしたら、NPTは同国の非核化に向けて何をできるだろうか。

イランのケースのように、外部での交渉が唯一の希望かもしれない。中国が懸念を募らせていることは良い材料だ。今年に入り、中国の当局者はロシアと韓国の高官と会談し、6カ国協議の再開に向けて話し合ったという。中国が北朝鮮の核開発に懸念を強めているかもしれないという事実は、外交面で西側に有利に働くはずだ。北朝鮮の核開発問題はまた、米ロが適度に協調できる1分野となるかもしれない。それは誰の利益にもなる。

非核化は幻想かもしれない。しかし、外交官たちが北朝鮮による核兵器備蓄の正当化を回避できるのであれば、北東アジアの核リスクを減らす努力には価値がある。成功を楽観する人は誰もいないだろうが、北朝鮮を核外交の最前線に再び戻らせる時が来たようだ。

*筆者は米首都ワシントンにあるシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」の上級研究員で、2010年から拡散防止プログラムを率いている。過去に米議会調査部や米国務省、米軍備管理軍縮庁で要職を歴任。現在は米科学誌「ブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ」の主要メンバーでもある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

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